
『オークションの世界 VOL.5 』オークショニアの仕事。オークションを盛り上げ、人気出品のBidをさらに伸ばせるか、腕前の見せどころ。
Written by HARADA Nobuyuki
オークショニアはオークションのエンタテイナー。オーケストラを指揮するように、時にはジョークを飛ばしたり。ステージのように楽しませてくれる
英語では名詞の語尾に er、ee、eer をつける と「〜する人」となるが、Auction につけて Auctioneer(オークショニア)となると「オー クションをする人」であっても参加者ではなく オークション会社側の競り手となる。オークション会場で演台に上がり金額が競り上がるように促して、最終的にハンマーを叩いて落札価格と落札者を決めるのがその役割だ。オークショニアはまず、スタートの価格を告げ、さらに上 の価格に手を上げた買い手のBid(入札)を速や かに見つけて競り上がった価格を告げる。これを繰り返し、もうこれ以上の Bid がないことを 見極めてハンマーを叩く。Bidは通常買い手が 登録した番号がシャモジ状のパドルに記されているのでハンマーを叩いた後に買い手の番号を 告げて落札の確認をする。
そんなオークショニアはオーケストラの指揮者のような存在だ。その腕でオークションの盛り上がりも変わってくる。ロット番号とアイテ ム名の他に場合によってはレポートの内容も告げて特別感を演出する。オークショニアの手元には会場に来ないで事前に上限価格を知らせてオークション会社に任せる Absentee Bid(委託入札)の情報や、下見会での反応などの情報が集 まっている。オークショニアはそれらの情報を頼りにスタートの価格を決めて勢いをつける。

オークショニアが対象とする買い手は会場、電話、委託入札の3つだ。国際オークションで はネットも加わるのでさらに集中力を必要とす る。もちろん広い会場内をオークショニアだけでは見逃しもあるので、補佐するスタッフがオークショニアの側と会場の四隅に立って、見逃しを見つけ次第オークショニアに即座に知らせる。 金額は通常5 〜10%程度ずつ切り上げていくが、億の桁になると一声が500〜1000万円になることもあり注意が必要だ。もっとも億単位の作品の競りでは特別なパドルのみ参加できることを初めに伝え、参加者を制限することもある。
オークショニアに特別な資格があるわけではなく、オークション会社のスタッフの中から向 いている人が通常業務と兼務している。オークショニアに求められるのは滑舌の良さと集中力で、これは若いほうが有利だがトラブル対応力に関してはベテランに軍配が上がる。従ってその両方を兼ね揃える40代〜50代が中心になる。男性のほうが数は多いが、女性も活躍している。 オークションは終わるまでに5〜 6時間かかることが多いので、オークショニア3人以上が 1時間から1時間半で交代するのが一般的だ。オー クショニアにも個性があって時にはジョークを言って場を和ませたり、声に抑揚をつけて勢いをつけたりもする。エキサイトすると演台から落ちんばかりに身を乗り出して会場と会話をする名物オークショニアもいる。オークションごとに 時間に何ロット競るかが決まっているため、時間管理の能力も必須だ。目当てのロットが何時頃競られるかを計算して参加する人がほとんどなので、予定通りの進行が求められる。
基本的にオークションの成否は魅力的な作品と魅力的な値付けで決まるが、Bid をリザーブ価格(最低落札価格)に誘導することや、人気の作品のBid をさらに伸ばすことができるのはオー クショニアだけだ。落札率や落札価格に関わるので、その役割は想像以上に大きい。
原田信之(Harada Nobuyuki)
株式会社ジュエリーアドバイザーアンドギャラリー 取締役社長
30年間で百数十回に及ぶ宝石の海外買い付けとジュエリーのプロデューサーの経験を生かして、相続、オークションの査定や資産性のアドバイスを行っている。