
『オークションの世界 VOL.7(後編)』オークションの下見会。それは、宝石の見る眼を訓練する最高の勉強の場所
Written by HARADA Nobuyuki
ルーペ、紫外線ライト、ノギス、定規はプロの必需品。使いこなせるようになりたい。
まず、ショーケース越しに見てカタログの画像と比較する。オークションカタログの画像は実際の色や寸法に近くするのが基本だが最近は実物より良く見せる傾向があるので確認が必要だ。下見会場によるが自然光で見ることができるスペースが用意されているところはぜひ活用したい。特にスペースを設けていない会場でも気になるロットは係に窓辺でチェックしたい旨を伝えて見ることも可能だ。宝石は光源によって見え方が変わるので自然光、蛍光灯、白熱灯、LEDとで微妙に異 なる。
次に手に取って重量を確認する。重さから耐久性や装着性をチェックする。例えばブローチの重いものは要注意だ。日本は温暖化で服装が薄くなっているので重すぎるものは使えないことが多い。 この後はルーペを使うので、事前に使い方をマスターしておこう。レンズを親指と人差し指で挟んで、ルーペのレンズにかかるかかからないかぐらいのところを中指で支える。ジュエリーを中指につけて覗くとピントが合う。 倍のルーペでは約指一本分が焦点距離だ。ジュエリーを宙に浮かせずルーペと中指で固定することがコツだ。焦点が合ったらルーペをできるだけ利き目に近づけて視野を広げる。片目で作業を続けると疲れるので両目を開けてできる訓練もしたい。
ルーペが使えるようになったら、初めに刻印を チェックする。刻印情報を掲載しているカタログ もあるが、掲載されていない情報もあるので横着せずに自分で確認しよう。刻印には使われている貴金属の種類と品位、使われている宝石の石目方、 メーカーやブランドのマークやシリアル番号などが打たれている。情報も大切だが丁寧に刻印されているかも重要だ。品質の高いジュエリーは刻印も きれいなものが多いが、品質の低いジュエリーで 刻印がきれいなものはほとんどない。メーカーの 刻印は特定できなくても打たれていることでメー カーの責任を取る姿勢が見えるので、あるほうが比較的安心だ。白い地金はプラチナの場合とホワイトゴールドがあるが、ホワイトゴールドにはロジウムメッキが施されているので傷ついてメッキがはげる場合があることを承知しておきたい。ブローチやペンダントは傷むことが少ないので大柄なものはプラチナを避けて比重が軽いホワイトゴールドで作ることがある。
紫外線ライトは簡易な鑑別に使えるので我々プ ロには必須だ。例えば、ダイヤモンドは蛍光を発するものが多く存在しており、稀にその中で特別に強いものが肉眼でも濁って見えることがある。 蛍光の程度と肉眼で見たギャップを自分で確認すれば、ほとんどが影響のないことが分かる。そうすることでレポートに「ストロングブルー」と記載があるだけで忌み嫌うことはなくなる。 宝石の内部をルーペで拡大して善し悪しを見分けるのはプロの領域だが、表面の傷や内部に亀裂があるとか、宝石を留めている爪が浮いていて作りが不完全であるとか、一般の方でも分かることもあるので挑戦してもらいたい。その際にクロス で事前に汚れを拭いておくとゴミとの見間違いを 防げる。
石目方が分からなくともノギスや定規でダイヤ モンドの縦横や直径を測ることで推定することが できる。公式の早見表もあるのでステップアップしたい方は専門書を読むことをお勧めする。 宝石は1カラット当たり幾らかが相場の基本に なる。例えばリザーブ価格(最低落札価格)をメインストーンの石目方で割っても目安になるので、 カタログに記入して品質や大きさとの関連性を見つけることも相場のヒントになる。 今回はかなり専門的になったが、あまり肩肘張 らずにできるところから始めるぐらいで良いので、 気軽に下見会に出向いてみよう。毎回必ず新たな 発見があるはずだ。「習うより慣れよ」の精神で 行ってみよう。
原田信之(Harada Nobuyuki)
株式会社ジュエリーアドバイザーアンドギャラリー 取締役社長
30年間で百数十回に及ぶ宝石の海外買い付けとジュエリーのプロデューサーの経験を生かして、相続、オークションの査定や資産性のアドバイスを行っている。