リディア・クーテル(Lydia Courteille)の新作「キャラバン」。それはラクダに乗って旅したデザイナー自身に刻まれた記憶
Written by WATANABE Ikuko
2015年からスタートしたリディア・クーテルの東洋の旅の最終章。パリジェンヌが描いたオリエントとは。
奇想天外すぎて、「どうやってつけられるの?」という作風が、世界のセレブに大人気の理由。
リディア・クーテル(Lydia Courteille)の名は日本ではほとんど知られていない。だが、アメリカやヨーロッパでは大人気のジュエリーデザイナーだ。私はイタリアのジュエリーショーで2回、彼女に会った。会う以前からブランドのことは知っていたけれど、海外の知り合いのジャーナリストたちの「リディアの新作、見た?」という興奮気味の問いかけに、インタビューをしないで日本に帰ってはいけないような雰囲気が漂っていて、アポイントを取ることにした。
ジュエリーの画像を見ればわかると思うが、リディアの作品はぶっ飛んでいるとしかいいようがない。今回の新作「キャラバン」には、炎を吹くリング、ゾロアスター教の墓からヒントを得たドクロのリング、鷲が張り付くターバン型のリング、髭をはやした男の顔のリング(あまりつけたくない)、とジュエリーとはほど遠い奇怪なイメージが続く。
リディア・クーテルは、ラグジュアリーブランドが建ち並ぶパリ・サントノーレ通りに店を構える。私は行ったことはないが、友人に言わせると「遊園地のようにワクワクする宝石店」なのだそうだ。彼女のホームページで採用しているアニメ的なイラストレーションが店内にも配置されているらしい。パリの老舗ブランドが並ぶ地に現れた超個性派ジュエリーにシャネルの元デザイナー、カール・ラガーフェルドが個人的に夢中になり、欧米のファッション誌が取り上げるようになる。リディアのキャリアはデザイナーからスタートしたのではなく、アンティークを扱ううちに、壊れて捨てられてしまう運命の古いジュエリーに新しい命を吹き込みたいという思いから、デザインし直し、いつしかデザイナーに転身していった。今でも最初から作り上げるコレクションと別に、アンティークのカメオやカラーストーンを再利用したコレクションも展開している。
個性の強いジュエリーに反して、リディアは拍子抜けするほどおっとりしていて寡黙な女性だ。「作品を見れば、私のこと、わかるでしょ」と暗に言っているようで、リングをそっと差し出してつけてみるように促す。奇怪なリングもはめてみるとその強烈な色や形に魅せられていく。リディアのファンの気持ちが理解できるようになる。
リディア・クーテルのホームページには『ヴォーグ』のアナ・ウィンター、ニコール・キッドマンなどの華やかな顔ぶれが並ぶが、直接会った本人からは派手な交遊をする人には見えなかった。「私はジェモロジスト(宝石鑑定士)」というくらいだから研究肌なのだろう。
6月に発表された新作「キャラバン」は、リディア・クーテルのオリエントの旅の集大成だ。ラクダに乗ったりして旅行し、観光した名所旧跡の数々からインスピレーションを得て制作に入ったという。カラーストーンを大量にセッティングしたボリュームのある、エキゾチックなジュエリーは、ハイジュエリーを長年愛用している富裕層を魅了する。「ヴァンドーム広場のジュエリーは全部、持っています」というような一握りのリッチなジュエリーマニアが辿り着くのは、庶民には想像もできないデザインなのである。