高福祉国家スウェーデンのジュエリーの変遷。若手が「贅沢禁止ムード」を乗り越える
Written by Kina Andersson Translation=Brand Jewelry
滑らかにポリッシュされたシルバー、ストレートなライン、機能重視のものから、「予期せぬ独創的な本物」を目指すスウェーデン・ジュエリーの流れ
スウェーデンのアート、建築、インテリア・デザインは 1900年 代に世界の影響を受けて、大きな変革を遂げました。しかし、 ジュエリーは取り残されたままでした。20 世紀を迎えても10年間は、変化は訪れませんでした。スウェーデンではなぜかジュエリーに対して保守的な考えがまとわりつき、多くの人は輸入物で満足していたのです。
1930年代、銀細工職人 Wiwen Nilsson(ウィエン・ニルソン) が頭角を現します。彼は、コンクリート・アート(具体芸術) の影響を受けて幾何学的な特徴のある彫刻的なジュエリーを制作しました。1950年代、自由、開放の精神が高まると、 Vivianna Torun Bülow-Hübe(ヴィヴィアンナ・トールン・ビュー ロヒューベ ) は 、女性的で柔らかく、かつ大胆なラインの描写で、Wiwen Nilssonが創作した男性的な彫刻とは対象的な作品を作りました。ヴィヴィアンナの作品はいろいろな素材と共に特に木や皮を使うことを特徴とし、ステータスとしてのジュエリーではなく、体、そしてつける人のパーソナリティを強調するものでした。 その後、幾何学的なデザインは、Sigurd Persson(スィグアルド・ ペルソン)によって新たな解釈が込められ引き継がれます。
1970年代、貴金属のジュエリーは富裕層の贅沢品とされていました。当時、高福祉国家の成立を目標にしていたスウェーデン では、宝飾業者は贅沢なジュエリーの製造を正当化する理由を見出せず、プラスチックなどの安価な素材の商品で甘んじるところもありました。しかし1980年代になると、Kristian Nilsson (クリスティアン・ニルソン)など、贅沢禁止の風潮をものともしない若い世代のジュエリーデザイナーが現れ、プレシャスストーンを用いたドラマティックなジュエリーを作り始めま した。
今日、Wiwen Nilsson、Vivianna Torun Bülow-Hübe、そしてSigurd Persson は、依然としてスウェーデンのジュエリーデザ イ ンに強い影響力を持っています。「シンプリシティ」はスウェーデンジュエリーの根幹を成すものです。伝統的な銀細工は継承 されています。1500年代、スウェーデン中部のサラ銀山で銀の採掘が始まって以来、銀細工はこの国の伝統であり、若い銀細工職人も昔ながらの技法を用います。アートジュエリーでも、 銀を使うことは特別な意味があるのです。 こうした流れに対して、新しい流れも生まれています。それは、 アートジュエリー、ファインジュエリー、ファッションジュエリーに関係なく、若い世代のデザイナーはプレシャスなマテリアルや 多様な素材を用いて、予期せぬ方法で、独創的なジュエリーを創造しています。ジュエリーアーティストMärta Mattson (マル タ・マットソン)は、不快な虫の死骸に美を見出します。それを銅 に組み込んだり、ジルコンやアズライトで装飾したりするのですファインジュエリーデザイナーの Maria Nilsdotter(マ リア・ニルスドッター)は、ゴールド、タヒチパール、プレシャスストーンを、羽や骨とミックスします。自然の形と解剖学に魅せられた Cornelia Webb(コルネリア・ウェブ)は服とジュエリー の対比、肌とメタルの対比をテーマにしています。
彼らは 、「独創的な本物 」 にこだわっているようです。また、環境問題は、現 代のジュエリーデザイナーにとって無視できない課題です。スロー・ファッション運動を行っているJohanna Nilsson(ジョアナ・ニルソン)は、自身のジュエリーでその重要性を伝えています。
2000年代に入り、スウェーデン国内ではジュエリーの需要が高まっています。また同時に、スウェーデンのジュエリーは世界的に認知されるようになり、多くはありませんが世界の市場で知られるブランドも現れています。
トップ:左/「化石」ネックレス。セミ、銅、ラメ、レジン、シルバー。 Märta Mattson 右/ ネックレス。Vivianna Torun Bülow-Hübe
メンバーの方には一足先にお得情報をお知らせします。会員登録はこちから
https://brandjewelry.shop/magazine/usces-member/?usces_page=newmember