No.127 SNSから生まれた漫画『宝石商のメイド』
BJI ブログ No.127
日本のサブカルチャーの代表として世界に知られる漫画やアニメ。2019年に『鬼滅の刃』が漫画からアニメ、そして映画化され、大きなブームとなったことはまだ記憶に新しいところです。
ところで「宝石」や「ジュエリー」をテーマにしたものとして、最近ちょっと気になっているのが『宝石商のメイド』という漫画。たまたまAmazonのサイトを見ていて偶然タイトルに目が留まり、コミック版(紙ベース)をポチっとしてしまいました。作品が到着して、さっそく読み始めるととても面白くて、あっという間に読了。でも時間を空けるとまた読みたくなる、そんな本です。これから読む方のために、ちょっとだけストーリーをご紹介しましょう。
時代は19世紀のヨーロッパのとある国の「ローシュタイン」という名の宝石店が舞台。主人公は、仕入れで海外を飛び回っている店主に代わり、宝石店の接客を一手に任されているエリヤという女性。ヨーロッパのメイドの衣裳を身に着けた愛らしいエリヤは、実は宝石の鑑定士の資格を持ち、石のことにとても詳しいのです。(そして、無類の紅茶好きでもあります。)
来店する客も老紳士、貴族、女優、貧乏学生とさまざまで、客一組に対して一話完結というスタイルになっています。その時テーマになる宝石は、サファイア、タンザナイト、メレーダイヤといった宝石はもちろん、時には鉱石(原石)も。その時語られる石を媒介に、紡ぎだされるエピソードに胸を打たれます。
そしてこの漫画のステキなところは、繊細なイラストともに「宝石の美しさや価値は、値段によるものだけではない」「高価なダイヤモンドを好む人もいれば、安価な水晶を愛でる人もいる」というエリヤのセリフ。
また「金ならいくらでも出す」という傲慢な客に対して、「申し訳ございませんが、お売りできかねます」と彼女の毅然とした態度で臨むところにも好感が持てます。
大事件があるわけではなく日常の宝石店の様子を淡々と描かいているのですが、読み終わった時にふっと心が温まるようなそんなストーリー。
作者のやませちかさんは、学生の頃からプロの漫画家を目指して作品を投稿してきましたが、なかなか思うような結果を出せず、一時は夢を断念。しかしやはり創作漫画を描きたいという熱い思いを打ち消すことができず、2020年11月からSNSで個人的に始めたのがこの作品です。
2021年7月よりKADOKAWAから商業作品として発表され、2021年12月に電子版と紙版のコミックの第1巻が、2022年4月に第2巻が発刊されています。
やませさん自身は「宝石は素人」と謙遜していますが、いやいや、とんでもない、宝石に関して深い知識を持ち、その情報がエリヤのセリフの中に簡潔にこめられていて、ジュエリー初心者にもとても分かりやすい内容になっています。
作品は現在pixivコミック、コミックウォーカー、ニコニコ静画というサイトで無料配信中ですが、FAN BOXというクリエーターを定額で支援するファンサイトも開設されていて、支援金は制作資金に充てられます。また支援すると作品の制作秘話やメイキング、追加エピソード、裏設定の公開などが見られるようになっています。
2022年1月5日~11日、阪急阪神百貨店、阪神梅田本店4Fで「宝石商のメイド展」&「麗しき鉱物展」というイベントも開催されました。会場には作品の中に登場する宝石もストーリーごとに展示され、スファレライトという珍しい宝石のティアラ、高品質のメレーダイヤ、サファイアなどが彼女のサイトでも紹介されていました。
もっと早くこの漫画の存在を知っていれば……と悔やまれますが、次回またイベントを開催したらぜひ見に行きたいと思います。まだまだ物語は続きます。これから先、エリヤはどんな客とどんなステキなエピソードを紡ぎだしていくのでしょうか。
Top画像:『宝石商のメイド1』KADOKAWA
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