BJI ブログ

ジュエリーと、ジュエリーにまつわるさまざまなエピソード

No.154 ヴィクトリア女王まで遡る、イギリス王室のパールのプロトコール。

BJI ブログ No.154

9月の最大のニュースはエリザベス2世の突然の訃報であり、その後に執り行われた葬儀の特番に目が離せなかった人も多いのではないでしょうか。完璧に組み立てられた荘厳な国葬から、あらためてイギリス王室の歴史の厚みと、ロイヤルファミリーのプロトコールを知ることとなりました。

プロトコールとは日本語では儀礼を意味します。イギリス王室には立ち居振る舞いをはじめ、服装には厳しいルールがあります。身につけるものは伝統を表し、言葉では表現できないメッセージを含んでいたりするのです。

中でもジュエリーは言葉の代わりを務めます。エリザベス女王の葬儀で、特に目を引いたのは王家の女性たちのパールジュエリーです。パールは日本でも悲しみの席に欠かせない装身具ですが、イギリスでも同じです。特に今回はエリザベス女王と過ごした日々に思いを馳せて、女王から譲り受けたパールを選んでいます。エリザベス女王はパールが大好きでした。日常的に3連のパールネックレスを愛用していたことはよく知られます。毎日着用して傷めるのを避けるために、3連のネックレスを2本用意し取り替えていたそうです。

国葬でキャサリン妃が身につけていたパールネックレスは、エリザベス女王からのギフトの1つ。これは、1975年、女王とフィリップ殿下が初めて日本を訪問された時、鳥羽のミキモト真珠島を観光されました。海に潜って真珠を採る海女の実演を楽しんだそうです。記念に日本政府は真珠を女王に贈りました。それをイギリスでネックレスに仕立てたのが、キャサリン妃の首を飾っていたものです。耳につけたパールとダイヤのイヤリングは、ダイアナ妃ゆかりのもの。気品に満ちた美しさは、未来の王妃の姿を想像させます。

カミラ夫人は胸元にエリザベス女王からプレゼントされた「ザ・ヘッス・ダイヤモンド・ジュビリー・ブローチ」をつけていました。これはヴィクトリア女王に遡ることのできるブローチです。ヘッスとは、ドイツのヘッセン家のことで、フィリップ殿下の家系です。

プロトコールを無視し、イギリスのタブロイドに年中叩かれているメーガン夫人もルールを守り、エリザベス女王からいただいたパールとダイヤモンドのイヤリングを着用していました。

現代のイギリス王室のパールの着こなし方は、ヴィクトリア女王がお手本です。相思相愛と言われた夫、アルバート公が1861年に亡くなると、女王はそれから40年間、服は黒を通し、ジュエリーは、ジェットとパールしか身につけませんでした。控えめな生活を徹底したのです。

さらに時代を遡ると、パールネックレスを何十にも重ねて画家に肖像画を描かせたエリザベス一世にたどり着きます。エリザベス一世が生きていた16世紀は、真珠はすべて天然、1粒でも希少で、まさに権力の象徴です。大粒の黒や白の真珠は、山田篤美著『真珠の世界史』によると、その頃、海洋国家であったスペインがベネズエラの海で現地人に強制的に採取させ、ヨーロッパに持ち帰ったというものです。真珠は政治に使われました。エリザベス一世はパールの持つ純粋さを自分に重ね合わせ、ヴァージンクィーンや月の女神のように手の届かない神秘性を象徴しました。

幻想的な光沢を持つパールは、純粋さや敬けんな雰囲気を醸し出し、神聖な場所では不可欠なジュエリーなのです。

Top画像出典: Kate Middleton インスタグラムより

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