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ジュエリーと、ジュエリーにまつわるさまざまなエピソード

No.181ロシアが発射した爆弾の破片でジュエリーを制作。領土防衛のための資金作りに奮闘するウクライナのジュエラー

BJI ブログ No.182

ロシアのウクライナ侵攻からまもなく1年。未だ事態は終結の兆しも見えないまま、ロシア軍の激しい攻撃により、ウクライナ全土で多くの死傷者が出ているニュースが日々伝わってきます。

そんな過酷な状況の中でも、ウクライナのジュエラーたちの中には、自国の経済を支援し、ビジネスを維持するために、ジュエリー制作に取り組んでいる人たちがいます。

たとえば、国際的に知られるジュエリーアーティストでデザイナー、そしてジェモロジストでもあるスタニスラフ・ドロキンさん。ウクライナおよび国際的なコンペティションで多くの受賞歴をもつ彼は、30年以上にわたって斬新な形と色の宝石を組み合わせたジュエリーを発表してきました。

戦争が始まると、家族をドイツに避難させ自身はウクライナに残り志願兵となり、自身のアトリエを近くの軍病院の倉庫として提供。1日のほとんどの時間を物資の仕分けと目録の作成に費してきました。2022年5月中旬、ボランティア活動がより組織化されたことにより、ジュエリー制作を再開することができました。

同じころ、ロシアの爆撃がしばらく途絶えていた期間があり、市街地でロシア兵が発射した爆弾の破片を集め、それでジュエリーを制作しました。そして完成したのが、破片の一部で枝を象り、明るい青色のチタンで作った7つの花をセットしたブローチ、Nezabudka(ウクライナ語で「忘れな草」)。

彼は「この戦争で亡くなったり、犠牲になった人々の記憶を忘れないために制作しました。他とは一線を画したコレクションになることは間違いありません」と語っています。

「忘れな草コレクション」は、他のウクラニア人ジュエラーたちにはもちろん世界中に、ウクライナの何世紀にもわたるジュエリーの伝統が紛争を生き延び、よりパワフルになる可能性があることを感じさせてくれます。

彼は、2022年11月10日に開催されたサザビーズのオークションに出品するため、このブローチをストロング&プレシャスというプラットフォームに寄付しました。ストロング&プレシャスとは、ヴァン クリーフ&アーペル・キーウ店の元マネージャーで今はオーストリアのウィーンに仮住まいのオルガ・オレクセンコさんと、彼女の友人でロンドンを拠点にしたPRコンサルタント、ナタリア・キエティエネさんが2022年4月初旬に設立したプラットフォーム。その主な目的は、ウクライナのジュエラーの支援です。

忘れな草のブローチはプラットフォームを通じてオークションで落札され、その収益金53,424スイスフラン(約750万円)は、義肢とリハビリ専門のクリニックであるウクライナのスーパーヒューマンズ リハビリテーションセンターに寄付されました。

他にも、戦争中に結婚する兵士にマリッジリングを無料で送るサービスをしているオベリグ、利益の100%をウクライナ軍とキエフの領土防衛の弾薬の入手のための寄付を行っているグゼマといったブランドなど、自国をサポートするために活動しているジュエラーが少なからずいます。このように、ウクライナのジュエリーコミュニティの多くのメンバー (国内に留まっている人はもちろん海外に避難している人も含める) は、ウクライナの宝飾品産業を支援しようという動きを加速化しています。以前当サイトのSDGsのページで紹介したウクライナのジュエラー、ノミスは、2022年ラスベガスで K18ゴールドコンバーチブルジュエリーを披露し、話題となりました。

ストロング&プレシャスの設立者の1人、オレクセンコさんは「私は今までウクライナのジュエリーにさほど注意を向けていませんでした。でも今は、自国のアーティストの才能にとても感銘を受けています。皮肉にもそれを気づかせてくれたのはこの戦争でした」と語っています。

立ち直りの早さ、楽観主義、たくましさ。困難な状況の中でも、ウクライナのジュエラーはこうした感覚を共有しているようです。

しかしながら、幸せをもたらすジュエリーの素材に爆弾の破片を使うことになってしまった異常事態は、早く終わって欲しいものです。

Top画像出典 : instagram.com/stanislavdrokin/


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