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大英帝国王冠を彩る取り外し自由の真珠 (Vol 2)

Written by Watanabe Midori

渡邉みどり ジャーナリスト。文化学園大学客員教授。東京都出身。早稲田大学卒業後、日本テレビ放送網入社。1980年「三つ子15年の成長期録」で日本民間放送連盟テレビ社会部門最優秀賞。昭和天皇崩御報道の総責任者。1995年『愛新覚羅浩の生涯』で第15回日本文芸大賞。『英国王冠をかけた恋』、『美智子さま「すべては微笑みとともに」』など著書多数。

イタリア、フランス、スコットランド、イングランドの王妃、女王に脈々と受け継がれ、エリザベス二世が戴く王冠に飾られた4つの真珠。4世紀以上にわたるドラマティックな歴史を振り返ります。


エリザベス一世と真珠

「女王の時代は栄える」を実証したイングランドの女王エリザベス一世が、ことのほか真珠を好んだことはよく知られている。1558年25歳で即位したエリザベス一世は生涯独身を貫いた。彼女が他のどの宝石よりも真珠を好んだのは真珠が貞節・純潔を表すと言われていたからだ。

「処女女王」とまで呼ばれた若きエリザベス一世は真珠のロングネックレスを身につけ、鬘(かつら)にまで真珠を編み込み、ティアラにも真珠をちりばめていた。女王お気に入りの一品は処刑したスコットランドの女王メアリから買い取ったメディチ家ご伝来の天然真珠。6本のネックレスと25個のバラバラの真珠だった。あるものは、しずく型、あるものは楕円そして真円真珠と、天然真珠独特のオーラと存在感があった。

時は流れ1603年3月24日午前2時エリザベス一世崩御。45年間、独身を貫いた女王の後継者は、自ら処刑したスコットランドのメアリ女王の一粒種だった。継承という血のリレーはジェームズ六世(1566-1625)がジェームズ一世として英国王位を受け継いだのである。メディチ家伝来の真珠とともに。

ヴィクトリア女王と英国王冠

歴史は時を刻む。19世紀1837年6月20日早朝午前6時。ウィリアム四世(1765-1837)崩御、そして18歳のヴィクトリア女王(1819-1901)が即位する。若き姪への王位継承に配慮した叔父ウィリアム四世は生前、王室の貴重品箱に収められていた宝飾品のすべてをヴィクトリア王女に継承させた。

目を引いたのはメディチ家ゆかりの一連の真珠であった。他にはヨーロッパ大陸から持ち込まれた渋いシルバーのハノーヴァー・パールもあった。即位の翌年1838年若き女王のため新しい英国王冠にこの貴重品箱の宝石が使われたのである。制作は王室宝石職人ルンデル&ブリッジ。王冠の底の部分には二段にもわたって真珠が使われた。上段には109個、下段には128個の真珠が周囲をぐるりと囲んでいる。トップを飾るマルタクロスの中心には涼やかなエドワード告白王(1042頃-66) のサファイア。王冠の縁には長時間被っても頭が痛くならないように天然ミンクの毛皮も付けられた。

現存するヴィクトリア女王戴冠式の肖像画。1838年6月28日、小柄な18歳の女王は彼女のために作られた1kg以上ある重い大英帝国王冠を戴き、よくその重みに耐えた。そして「女王の時代は栄える」を再現した、ヴィクトリア女王の英国王冠。産業革命と植民地政策の成功。日の沈むことのない大英帝国は歴代の国王によりいくつもの宝石が加えられてきた。いま王冠の正面中央にはめ込まれている「第二のアフリカの星」は1911年ジョージ五世(1965-1936)の時代に加えられた。女王陛下の母君クイーンマザーはこの「第二のアフリカの星」を取り外してブローチとして楽しまれたという。

1953年にはエリザベス二世女王陛下の戴冠式にあたり王室宝石職人ガラードの手によってこの王冠がカーブ修正された。基本デザインは170年前ヴィクトリア女王のために作られた「大英帝国王冠」そのものだ。この「大英帝国王冠」を彩る273個の真珠。その中には王冠の裏側に輝く4つのしずく型の真珠が含まれている。

振り返ってみると500年前イタリア・ルネサンスのフィレンツェ・メディチ家ご伝来の真珠は歴史のヒロインとともにイタリア、フランス、スコットランド、イングランドと命の旅を続けてきた。遥かな時を超えてヨーロッパ中の真珠が「大英帝国王冠」に集約されたといえる。王冠を彩る真珠こそ英国王室の文化そのものであり、歴史の証言者なのである。

左:エリザベス1世。  中:ヴィクトリア女王。 右:エリザベス2世女王(1952/2/6 – 2022/9/8)

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