ハイジュエリーを最初から完成まで、自分で制作するジュエリー作家、アリックス・デュマ
Text=Watanabe Ikuko
石留めと貴金属の鋳造を除くすべての工程を自作する女性ジュエリー作家。久々に本物のハイジュエリーに出会いました。
自慢するわけではないですが、これまで膨大な数のハイジュエリーを目にしてきたので、ジュエリーを見る目は確かです。ハイジュエリーとはただ値段が高いものだったり、単に大きくて希少な宝石がセットされたジュエリーでもありません。本物のハイジュエリーとは、一言では語れませんが、目に入った瞬間、圧倒的な存在感、カリスマ性によって目がそらせなくなるものです。
東京の駐日フランス大使公邸で、フランス出身のジュエリー作家アリックス・デュマ(Alix Duma)のコレクションを目の前にした時、文字通り「釘付け」になってしまいました。「デザイナーさんですか?」という問いに、「私はクリエイターで、自分で作っています」という返事にさらにびっくり。ジュエリーの製作は力仕事なので、何百年も前からこの仕事は男のテリトリーです。この10年ほどの間にクラフトウーマンが増えているとはいえ、アリックスさんほど複雑な作品を作る技術を持った女性を取材するのは初めて。デッサンよりも、モデリング用の粘土やワックスを削ったり曲げたりすることに時間をかけ、作品の土台づくりに時間を費やします。貴金属の鋳造と石留め以外はすべて自分で行います。
ジュエリーとは本来、体とつながっているもの
大学卒業後、パリのコンテンポラリージュエリースクールAFEDAPで学んだのち、ハイジュエリー工房で働き、2人の子供の出産後、2020年アトリエ「MAD joaillerie」を立ち上げました。アリックスのジュエリーを言い表すと、ボリューム、宝石の色と輝きによる陰影、緻密な彫り、彫刻的なフォルムといったキーワードが思いつきます。大きさは体の一部を覆うほど、多様な宝石のメレセッティングは形状に合わせて留めるだけでなく、あえて空白分を残すこともあります。裏側は規則正しいハニカム構造(蜂の巣)。着用しやすさを追求し、軽量なチタンを使ったり、貴金属に彫りを入れて空間を作るなど、工夫を凝らし軽量に仕上げています。
また、倫理観や環境に配慮し、フェアトレードゴールドやリサイクルシルバー、宝石はトレーサビリティが可能なもの、またオールドマイン・ダイヤモンドを好んで使用しています。
ハイジュエリーブランドとして確立していくために、アリックスはコンセプト、技術力、デザイン力、倫理観など総合的に構築したことにより、2021年のパリのTimeless Jewels 展、2022年ミラノ・ジュエリーウィークのクリエイティビティ&デザイン部門、2023年ラスベガスCoutureのオートクチュール 部門など多数のコンテストで受賞しています。
技術が凝縮したハイジュエリーは文化のひとつ。ハイジュエリーを身につける社会があり、素材よりも、ネームバリューよりも、人の才能にお金を払うスポンサーがいる環境が、このような素晴らしいジュエリーを生み出すのでしょう。久しぶりに出会った感動的なジュエリーでした。
トップ画像:Magnolia Flowerブローチ,2023:COUTURE宝飾展のオートクチュール部門で最優秀賞受賞。フェアマインド認証18Kイエローゴールド、カラーチタン、リサイクル・シルバー(燻銀)、ダイヤモンド、パヴェ:スピネル、サファイア、ダイヤモンド Timeless Eternityイヤリング,2022を身につけたアリックス・デュマ