Text=Machida Akemi

新作ハイジュエリー コレクション「Le Grand Tour（ル グラン トゥール）」は、ヨーロッパ起源の文化遺産を再解釈。70点もの心奪われる宝石の数々は、メゾンのサヴォアフェールを結集して生まれました。

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コロナ禍を経て、ハイジュエリーの需要が急速に高まる中、ヴァン クリーフ＆アーペルから、このメゾンでしか成し得ないような芸術性の高いハイジュエリーが誕生しました。

ヴァン クリーフ＆アーペルは花や蝶、鳥など自然界をモチーフにした壮麗なジュエリーを得意としますが、新作ハイジュエリーは18世紀から19世紀にかけて広く普及した「グランドツアー」から着想を得ています。

グランドツアーとは、かつて上流階級の青年が学業の最終仕上げとして、見聞を広め、社交界のデビューに備えるために、2～3年間ヨーロッパを巡る旅に出たことをいいます。特に人気があった行き先はパリ、ヴェネツィア、ローマなど。フランスでは礼儀作法や高貴なマナーを学び、古代遺跡の多いイタリアでは古代の彫刻などを学んだといいます。

英国貴族の子息に流行したグランドツアーのように、ヨーロッパ各地を旅するようなワクワクした気持ちにさせるヴァン クリーフ＆アーペルのハイジュエリー。ルネサンスの宝飾品を思わせる彫刻的なネックレスとシャンデリア風のジランドールイヤリングから、古代のマイクロモザイク様式で名所の風景を忠実に再現した幅広のブレスレットまで70作品ものハイジュエリーが完成しました。

グランドツアーの出発点はロンドン。英国のヴェルサイユ宮殿とも呼ばれるチャッツワース・ハウスにある至宝を彷彿とさせるのが、「デア　エテルナ」クリップです。

ラピスラズリの岩に乗った女神ヘベのシルエットなど、さまざまな立体パーツが視線を捉えますが、注目すべきは壁龕(へきがん)の部分。ポリッシュ仕上げやテクスチャー加工を施したゴールドの帯と、ブリリアントカット及びマーキスカットのダイヤモンドを重ね合わせて、全体としてゴツゴツとした岩の質感を表現しています。ピンクサファイアとラピスラズリ、養殖パールの美しさだけでなく、繊細な連結部や複雑な仕上げに、メゾンの卓越した職人の技が見て取れます。

100年以上の間に蓄積されたメゾンの技術を継承

ジュエリーという小さなスペースに、どうやったらこのように美しく宝石を留められるのでしょうか。それは、100年以上という年月に蓄積されたメゾンの技術が継承されているからです。

ヴァン クリーフ＆アーペルは、ダイヤモンド商の息子、アルフレッド・ヴァン クリーフと、宝石商の娘エステル・アーペルの結婚をきっかけに、1906年パリのヴァンドーム広場にブティックを開いたのが始まりです。フェミニンで繊細、ストーリー性のあるジュエリーで、他のブランドにはない独自性を発揮し、世界中のセレブから愛され続けています。

1933年には、びっしりと貴石を敷石のように台座に留めるミステリーセッティングで特許を取得。マザーオブパールやオニキスなどで幸運の四つ葉のクローバーを表現したアルハンブラは、1968年の誕生以来、メゾンのアイコンとして親しまれています。

ハイジュエリーは創造的なデザイン、高度な宝飾技術、世界各国から宝石を調達する力、この３つのどれか１つでも欠けると完成しませんが、ヴァン クリーフ＆アーペルはグランドツアーで出会った書物や作品の美しさを表現するにあたって、創造性豊かなデザイナー、宝石鑑定士の鍛え抜かれた目、アトリエの匠の技といった、あらゆる専門知識を結集。メゾンのデザイナーは旅のスケッチを描くように次々と作品を考案し、息を呑むほど美しい傑作を生み出しました。

時空を超えて、ヨーロッパのグランドツアーを追体験させてくれるようなハイジュエリー。貴族の10代の若者がフランスからイタリアに渡る際には、アルプス越えのルートも人気でした。2石のブルーグリーントルマリンをセットしたネックレスは、アルプスの雪山からルツェルン湖を望む絶景を彷彿とさせます。

他にも、ヴェネツィアの水辺を表現したターコイズのネックレス、古代ローマの彫刻技術を用いた壺のモチーフのクリップ、赤や黄色、ピンクのバラが咲き誇るフィレンツェのローズガーデンをイメージしたリングなどを見ていると、イマジネーションが掻き立てられ旅に出たくなります。

取材協力: ヴァン クリーフ＆アーペル