神秘と欲望と愛に彩られたジュエリーに巡りあう旅 #1
Text = Horie Ruriko
Jewelry=Victoria and Albert Museum
William and Judis Bollinger Jewellery Gallery
日本以外の国ではジュエリーが古くから生活の中に溶け込んでいる。旅の中でジュエリーを発見するのを生き甲斐としている堀江瑠璃子さんの異色の旅行記。
堀江瑠璃子 (Horie Ruriko)
ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員・NHK番組審議委員、『マリー・クレール』エディトリアルディレクターなどを経てフリーランス。著書に『世界のスターデザイナー43』など。
EGYPT(エジプト)—見事なジュエリーの源流
肉は、すべて口にしない。魚も甲殻類に限る。早起きは苦手。これだけ我侭がそろっていると、旅行社のツアーに参加して海外旅行に出かけるなんて、かなりの難題だ。そう思って、仕事の旅もプライベートの旅も1人か2人が基本で、数えてみればすでに50カ国以上を旅してきた。そんな私が、最近ツアーにハマっているのは、社会情勢、治安、交通事情、言葉などが特殊なため個人旅行が難しい国々だ。といって選ぶのは、歴史があって独自の文明があって、民族衣装があって、ジュエリーがあって……と、欲張りな条件がつく。
現地が砂嵐の季節になる前にと、昨年2月に選んだのは「ビジネスクラスで行くナイルクルーズと優雅なエジプトの13日間」(阪急交通社)。このツアーは、まず三大ピラミッドのあるカイロ郊外のギザを振り出しにスーダン国境に近い南のアブシンベルに飛び、大神殿に圧倒されたあとナイル川をクルーズしながらコム・オンボ、エドフなど古王国時代の神殿を訪ねたり、帆掛舟で遊覧したりしながら王家の谷のあるルクソールへ向かう。ルクソールからは空路カイロへ戻り、モハメッド・アリ・モスクやエジプト考古学博物館などの見学が組まれ、エジプト観光のハイライトはすべて網羅されている。だからこそ自由時間はほとんどなく、私のジュエリー探索願望は欲求不満に陥るところだが、自然発生的収穫がいくつかあった。
その一つは、いくつかの神殿の壁画に神や王や王妃への貢物として首飾りが捧げられていることだ。紀元前3千年頃のことだから、ジュエリーの源流といえる。また考古学博物館のある有名な「ラーヘテプと妻ネッフェルト」の像では、夫も妻も首飾りをつけていて、紀元前2600年頃から平民の間で日常的にジュエリーが使われていたことがわかる。またツタンカーメンの黄金のマスクがある部屋には、幅10㎝もある精巧な彫金の首飾りがあり、当時のデザイン力、技術力の高さには驚かされる。また、ナイル川の帆掛舟ではネピア族の男たちが舟を繰りながら、舟底にじゅうたんを敷き、木の実を繋いだり、ラクダの骨を使ったネックレスやイヤリングを並べ即席商店に。古からまた何千年も前から貧しい人々の身を飾ってきたアクセサリーが、ルーツといえそうだ。私が買ったハート型の白と黒のラクダの骨を繋いだネックレスは、いかにもトライバル風で、値切った値段は17米ドルだった。
カイロやアレキサンドリアのような大都会には、宝飾店もたくさんあるが、デザイン的に魅力が乏しいのは、古代エジプトの女性の服装が開放的だったのに対し、現代の女性たちは宗教的理由で髪や肌を覆い隠しているせいもあるのだろうか。
200BC−100BC頃。ゴールド、フィリグリー、エナメル、ガーネットで作られた古代ギリシャのハトモチーフのピアス。ヘレニズム時代の遺跡に多く発見されている。
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