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ファッションとジュエリーの親密な関係 (Vol 1)

Written by Horie Ruriko

堀江瑠璃子(ほりえるりこ) ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。NHK番組審議委員、『マリー・クレール』エディトリアルディレクターなどを経てフリーランス。著書に『世界のスターデザイナー43』など。

20世紀に入り、王室の崩壊、産業革命、ブルジョアジーの台頭などによって、それまで王侯貴族の象徴であった宝飾が、一般の女性のおしゃれアイテムとして広まった。
ファッションを見続けてきたジャーナリストが20世紀初頭から現代までのファッションとジュエリーの流れを振り返る。


1911年パリ・コレクションが正式に始まってから、すでに100年余り。振り返れば、長い間王侯貴族の富や権力の象徴であった宝石や宝飾品が、徐々に一般の女性たちのおしゃれの必需品に加えられたのも、やはり20世紀を迎えてからのことだ。

移ろいやすいからこそ美しく、トレンドが変わるからこそ購買力をそそるファッションと、永遠の輝きを放ち、変わらぬ価値を持ち続けるジュエリーは、一見対極にあるようだが、実はどちらも時代の流れの中で磨かれ、研ぎ澄まされた感性から生み出されるという点では、共通している。

ちなみに、一昨年(2010年)7月のパリ・オートクチュール・コレクションの期間中には、パリのハイジュエラーの新作発表会も正式日程の中に組み込まれ、ファッションとジュエリーの関係が、緊密度を増すことになってきた。 また今年は、創業時代からジュエリー部門を持つシャネルやディオールのほかに、ルイ・ヴィトンやヴェルサーチが、新しくジュエリー界に参入した。

ベル・エポックで花開いた宝飾芸術とファッション

フランスではベル・エポックと呼ばれ、ファッションや宝飾芸術が花開いた19世紀末から20世紀にかけての時代に、オートクチュールの元祖とされるのは、ナポレオン3世の皇妃ユージェニーをはじめヨーロッパ各国の王妃やロシアの貴族、アメリカの大富豪夫人らが顧客名簿に名を連ねていたというシャルル・フレデリック・ウォルトだ。その彼がサロンを構えていたのは、オペラ座からヴァンドーム広場へ続くド・ラ・ペ通り。しかも、その隣はカルティエとあって、それぞれの顧客のためにファッションとジュエリーのコラボが、友好的に必然的におこなわれていたという記録がある。

 一方、19世紀末には、舞台女優サラ・ベルナールのように自立して自由奔放に生きる女性たちも現れ、刺激を受けた芸術家たちの間から、女性的な曲線や華麗な色彩をモチーフとするいわゆるアール・ヌーヴォー・スタイルが生み出された。その中心的存在が、ルネ・ラリックだった。彼は、それまでのダイヤモンド中心のジュエリーに反発してオパール、アメシスト、トルマリンなどのカラーストーンを積極的に用いたり、エナメル(七宝)の技法を取り入れたり、象牙や動物の骨なども素材に加えた。また花や植物以外に、トンボ、チョウ、ヘビなどもモチーフとしてデザインに取り入れ、自由奔放に独自の美の世界を表現した。
 1920年代に入ると、ラリックは宝石の世界から離れ、ガラス作家として活躍するが、その時代にデザインしたクリスタルのカボション・リングは、いまもラリックのベストセラー商品となっている。

左:1920年マドモアゼル シャネル  右:1926年『VOGUE』シャネルAD

コルセットから解放された女性たち

同じ頃ファッション界にも、大きな潮流の変化が起きた。16世紀以来続いていたコルセットでウエストを締めあげ、クリノリンでスカートを大きくふくらませ、女性の体を人工的にS字型にしてドレスを着せるスタイルが、ついに終焉を迎えた。その背景には、新しい富裕層の台頭と共に、旅やスポーツを楽しむ活動的な女性が増えてきたという社会情勢の変化がある。そんな時代の到来をいち早く見抜いてコルセットをつけずに着るハイウエストで細身なドレスを発表したのは、ポール・ポワレ。彼は、古代ギリシャの女性がまとっていたチュニック風のドレスやゆったりした直線裁ちの日本の着物から、発想を得ていた。

ゆるやかな首まわり、短い袖丈、動き易いスカート丈。ポワレが打ち出すシンプルなドレスは、たちまち女性たちの心を捉えたが、そんなスタイルにマッチするジュエリーといえば、いわゆるアール・デコ・スタイル。当時の建築様式とも連動するモダンで幾何学的デザインが、好まれた。ハリー・ウィンストンのスカイスクレイバー・リングやカルティエのエジプシャン・ペンダントなどは、この時代の代表作だ。

シャネルのビジュウ・ファンテジー

1929年米国のウォールストリートから始まった世界恐慌によって、時代は一変した。贅沢品は売れなくなり、パリのオートクチュールも大きな打撃を受けたが、そんな中でもすでにファッションと香水のビジネスで大成功を収めていたシャネルは例外で、翌年にはビジュウ・ファンテジー(いわゆるコスチューム・ジュエリー)の分野に進出し、シャネル自身本物のジュエリーとファンテジーを一緒に身に着けた。その意表を衝く斬新な発想は、ジュエリーの新しい潮流ともなった一方、やはり本物のジュエリーにこだわる人の間では、ダイヤモンドとプラチナによる、いわゆるホワイト・ジュエリーに人気が集まった。   Vol 2に続く

Brand Jewelry 2012-2013 より抜粋 *当サイトの情報を転載、複製、改変等は禁止いたします

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