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No.113 経済制裁。ロシアのダイヤを「紛争ダイヤモンド」と位置づける動きも。どうなるのか?

BJI ブログ No.113

ロシアのウクライナへの侵攻はいまだ停戦合意に至らず、現地は厳しい状況下にあります。

主要7カ国(G7)はロシアに対して厳しい金融経済制裁を科していますが、一方でロシアから輸入している小麦などの農産品や天然資源などの調達が困難になることから、今後の生活への影響が懸念されています。

宝石業界に目を向けてみると、ロシアのダイヤモンド鉱山はダイヤモンド産業の中心となっていて、ロシア自体は世界最大のダイヤモンド生産国で、世界市場の約30%を占めています。また、ほとんどすべてのロシアのダイヤモンドは国家が支援するダイヤモンド採掘企業アルロサ(Alrosa)で生産され、ロシア産すべてのダイヤモンド原石の99%を占めていると言われています。

3月19日付のイギリスのメディアサイト 『ザ ガーディアン(The Guardian)』によると アルロサはクレムリンと密接な関係にあり、その最高経営責任者であるセルゲイ・イワノフ(Sergei Ivanov)氏は今回アメリカの制裁の対象となりました。彼の父、セルゲイ・ボリソヴィッチ・イワノフ氏が、プーチンの最も近い側近の1人であり、元国防大臣であることもその理由と言えます。こうした背景から、宝石商、ダイヤモンド会社、およびそれらを規制するために設立された業界団体にとって、ロシアのダイヤモンドの売買を継続するか否かが今、大きな問題となっています。

当サイト2022年2月25日付のSDGs記事でもご紹介したNGO団体Pact(パクト)のディレクターを務めるクリスティナ・ヴィルガス(Cristina Villegas)氏は、「これは客観的に見て、紛争ダイヤモンドです。ウクライナとの武力闘争のために州の関係者から資金提供を受けています」と語っています。

「紛争ダイヤモンド」は、反政府勢力グループに資金を提供するために使用されるものを指すもので、厳密にいえばロシア産ダイヤモンドに当てはまりませんが、ヴィルガス氏は「明らかに紛争ダイヤモンドだ」ときっぱり。

バイデン政権は2022年3月11日、海産物、ウォッカとともにロシアのダイヤモンドの輸入を禁止しました。しかしこれについて、関係業者は「ロシアの宝石の流れを止めるものではない」と語っています。なぜならロシアで「採掘された石」のほとんどが世界の原石ダイヤモンドの約90%を処理するインドに輸出され、切断および研磨されます。研磨されたダイヤモンドは、ロシアではなく「インドの製品」として取引されます。

つまり、現時点ではアメリカ企業がインドを通じてロシアのダイヤモンドを購入することは、制裁に違反することにはならないということです。

制裁が始まり2週間ほど経ち、アルロサは長年の「顧客」リストをウェブサイトから削除しました。ただし、同社のカタログのアーカイブ版には、多くの主要な国際的なダイヤモンド商人や宝石商が名を連ねています。過去4年間で、同社は60を超える名だたる大手企業と長期契約を結んでいます。

そんな中アルロサの長年の顧客としてリストにあったシグネット・ジュエラーズ(Signet Jewelers)は、ロシアで採掘されたダイヤモンドの購入を停止することを宣言、またエシカル(倫理的)な宝石のみを調達しているアメリカのジュエリー企業ブリリアント・アース(Brilliant Earth)は、ロシアのダイヤモンドを売りに出すことを発表しています。

一方で、アルロサの顧客であるティファニーやレオ・シャクター(Leo Schachter)といった大手ジュエラーは沈黙を守っています。

こうした状況について先述のヴィルガス氏は、「今後数年の間に消費者のダイヤモンドに対する信用が低下してしまう恐れがある」とした上で「業界が沈黙を守ってしまうことで、今まで業界の評判を高めようと何年にもわたってダイヤモンドに対して有意義だと思ってきた努力が、水泡に帰してしまうのではないか」と懸念を表明しています。

ロシアへの経済制裁、宝石業界にも今後様々な問題をもたらすことになりそうです。

トップ画像:ヤクート・ミール鉱山

センターにハート型パパラチアサファイアを配したリング。プラチナ台には小さな粒が細かく施されています。ミルグレインと呼ばれ、アンティークジュエリーによく見られる技法です。指のサイズに合わせて製作します。¥148,500
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