No.68 第2次世界大戦後世界最大の宝石盗難事件「緑の円天井」事件。6名の若者が起訴
BJI ブログ No.68
ダイヤモンド、エメラルド、ルビー、サファイア……。美しく輝くジュエリーは、じっと見ているだけで幸せな気持ちにさせてくれます。特に何百年も前に作られたジュエリーを美術館で鑑賞するときは、どのような変遷を経て今に至ったのかその時代へ思いを馳せるだけでも楽しいもの。
時には「歴史的に価値があり、希少性が高い、そして美しい」がために、それをどんな手を使ってでも手に入れようとする輩によって、悲しい事件が起こったり……。こうした事件は過去のものではなく、今もなお現在進行形で起こっています。
一番記憶に新しいところでは、2019年11月25日早朝、ドイツ東部ドレスデン城にある宝物館「緑の円天井(Green Vault)」で、18世紀の貴重な宝飾品が盗まれた事件。
この宝物館はヨーロッパ最古の博物館の1つで、1723年にアウグスト強王によって設立、ヨーロッパ最大規模のバロック期の宝物コレクションを誇っており、象牙や金銀、宝石をあしらった希少な品約4000点を所蔵しています。盗まれた所蔵品は「ドレスデン ホワイト」として知られる49カラットのダイヤモンドがあしらわれた肩飾りをはじめ、柄に大粒のダイヤ9個と小粒のダイヤ770個を埋め込んだ剣やブローチなど21点。
最も貴重な所蔵品である41カラットの緑のダイヤモンド「ドレスデン グリーン」が、ニューヨークのメトロポリタン美術館に貸し出されていたのは不幸中の幸いでした。
宝物館の館長は「具体的な値はつけられない」と述べていましたが、現地メディアは、「第2次世界大戦後で最大の盗難事件」「被害額は10億ユーロ(約1240億円)に上るのではないか」と報じていました。
博物館近くでは事件発生の直前、配電設備で火災が発生(後に犯人たちの仕業だと判明)。これにより博物館の警報器と街灯の電源が切れていましたが、防犯カメラは停電中も稼働していて男2人が博物館に侵入する様子が捉えられていました。
彼らはガラスの陳列ケースを斧でたたき割ってジュエリーを強奪し車に乗って逃走。警備員によって警報が発せられてから警察が現場に到着するまでのわずか5分の出来事でした。
その後窃盗に関わったとされる6名が逮捕され、2021年9月2日にドイツの検察官により起訴されました。容疑者はドイツ国籍の22歳~27歳の若者で、名前こそ明かされませんでしたが、犯罪組織として悪名高いアラブ出身のファミリー「レモ(Remmo)一族」のメンバー。盗まれたジュエリーはまだ見つかっておらず、現在も捜索中。
また容疑者のうち2人は、2017年にベルリンのボーデ博物館から100キログラム(220ポンド)の金貨を盗んだとしてすでに有罪判決を受けていますが、その金貨もまだ回収されていません。当局によると「硬貨は小さな断片に切り分けられ、売りさばかれたのではないか」といわれています。
ひょっとしたらドレスデンのジュエリーもすでに石が外され、どこかで売買されているかもしれません。
欧米には、紛失および盗難に遭ったアート、骨董品、収集品に関する情報を収集、データベース化、さらに盗まれた品を元の所有者に戻す支援を行うアート ロス レジスター(通称ALR)というロンドンを拠点とする営利団体があります。そのドイツ支部の前代表でデュッセルドルフ大学教授のウリ シーガース氏は、「ここ数年、国際的に組織化された窃盗団が価値のある作品をターゲットにする傾向が非常に高まってきています。それはジュエリーにも当てはまります。美術館は一般の来場者を受け入れる役割を持ちながらも、可能な限り保護する方法を検討する必要があるのではないか」と語っています。
素晴らしいジュエリーを公開したいけれど、セキュリティも厳しくしないといけないという矛盾、なかなか難しいものですね。
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