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サンゴを装う

珊瑚には、お土産などカジュアルなアクセサリーや小物に利用される造礁珊瑚と、高級品となる宝石珊瑚に分かれます。日本の高知の海で採られる宝石珊瑚は、高級宝飾品のための素材として世界で認知されていますが、日本ではあまり知られていません。日本でジュエリーといえば、誰もが真珠を思い浮かべ、その高い品質を誇りにしています。宝石珊瑚は、成長に時間がかかり量産ができないため、真珠以上に希少な素材。珊瑚自体が高級宝石そのものと言えます。ここでは宝石珊瑚の美しさをフィーチャーします。


明治時代、高知県で珊瑚漁が始まると、
ヨーロッパの珊瑚職人はあまりの大きさに驚いた

日本の宝石といえば誰もが真っ先に思い浮かべるのは真珠です。しかし、真珠が登場したのは養殖真珠が成功した1893年(明治26年)です。それ以前、真珠は天然真珠なのであまりに小さく、宝石はサンゴやべっ甲が中心で、象牙、メノウや水晶などもありました。特に赤い珠のサンゴは女性の憧れでした。

江戸文化の爛熟期、文化・文政期(1804年)以降、サンゴをあしらった髪飾りが流行します。当時日本ではまだサンゴを採取はされていなかったので、はるばる異国から持ち込まれた舶来品で、今でも博物館で当時の櫛を見ることができますが、象牙に桃色のサンゴや螺鈿、べっ甲の櫛に鮮やかな朱があしらわれ、まさに宝飾品です。江戸、明治、昭和と、女性たちは和装に合わせてサンゴの付いた櫛や帯留めをひとつくらいは必ず持つようになりました。

イタリアで見た高知県産の宝石珊瑚

『ブランドジュエリー』編集部では定期的に海外のジュエリー展示会の取材に行きます。イタリアの最大規模のジュエリーショー「ヴィチェンツァ・オロ」である時、意外な発見をしました。あまりにもきれいな赤、ピンクの光沢のきれいなサンゴを使ったセンスのいい高級品のジュエリーに目が止まり、その展示ブースを覗いてみると、「これはあなたの国、高知県のサンゴですよ。大きくて色も最高に美しい」。日本から来たことを告げると、販売の女性が説明してくれたのです。日本のサンゴはイタリアでモダンな形に研磨され、大ぶりのネックレスやリングに加工され、堂々とハイジュエリーのコーナーに並んでいました。

欧米の女性はさまざまなタイプのジュエリーを身に着けますが、艶やかな色の血赤サンゴも好きなアイテムのひとつです。イタリアの宝石店のサンゴは、地中海サンゴが中心ですが、地中海サンゴは原木の枝が細く、内部にキズや白濁などの欠点を持っているものが多く、高級品にはほど遠い品質です。そうした理由もあって、高級なサンゴジュエリーには日本から輸入した宝石珊瑚が使われます。日本沿岸で採れる宝石珊瑚は、大きさ、品質ともに地中海産とは比較にならないほど良質なのです。とりわけ血赤サンゴとなるアカサンゴの原木は日本固有のものです。

イタリア「ヴィッエンッア・オロ」に出展していたコーラルジュエリーのディスプレイ

宝石珊瑚と造礁珊瑚

地中海のサンゴ、日本のサンゴ、どのような違いがあるのでしょうか。サンゴには海岸の浅瀬で見受けられる造礁珊瑚と、深海に生息する宝石珊瑚があります。造礁珊瑚は成長が早く軽石のような状態なので、研磨しても光沢は現れません。一方、宝石珊瑚と呼ばれるサンゴは丹念に磨くと美しい光沢が生まれます。きれいな色艶が現れるのは、サンゴの中心部に形成された原木と呼ばれる骨軸の部分です。

地中海サンゴの原木は、水深50〜200メートルの海底に生息し、平均的な高さは20〜30センチ、枝の広がりは10〜15センチ、枝の直径は5〜6ミリ以下のものが中心です。細いので大きな珠を作ることはできず、ほとんど小さなビーズになります。

日本の宝石珊瑚の中で特に高値で取引されるのは血赤サンゴです。日本近海、特に土佐湾の100〜300メートル程度の深海でゆっくりと成長します。平均的な高さは30センチ、根元の直径が3センチと、これも大きくはありません。海底に扇のように枝を広げてくっついていて、そのまま採取したものは観賞用として人気です。大きなルースが採れるのは根元のごく一部なので、丸珠の場合、直径7ミリ以上は高価で、10ミリ以上を超えるものは希少です。色はこれ以上濃い赤はないほど濃い赤で艶があり、もちろん「フ」(年輪の中心にある白色)や「ヒ」(縦方向のひび)、またキズがないものです。

宝石珊瑚ではその他に最近人気のピンクサンゴがあります。ピンクサンゴは柔らかい色合いから「エンゼルスキン」「ボケ」と呼ばれてきました。ピンクサンゴは主にモモイロサンゴという原木から採取されます。モモイロサンゴは深海200〜500メートルに制作し、高さは1.5メートル、根元の直径が15センチとアカサンゴよりも大きく成長します。色はできるだけ均質で、色むらがないものを選ぶのがいいでしょう。
 
近頃、白いサンゴも見るようになりましたが、真白なシロサンゴはレアです。シロサンゴは南シナ海、沖縄近海、五島列島、長崎沖、土佐湾など、日本近海の水深100〜400メートルのところに分布しています。ピンク色を基調に白色が混ざり合う傾向があります。セピア色の色調も注目を集めています。

宝石珊瑚はいずれも深いに海に生息するので、採取に費用がかかります。また枝の太さから考えてみても大きな珠が作れないことは容易に想像できます。宝石珊瑚は一生もののジュエリーです。女性のお守りとして、もちろん最近では赤、ピンク、白、セピアといろいろな色のサンゴをダイヤモンドや宝石と組み合わせて高感度なサンゴジュエリーが登場しているので、おしゃれとしても素敵です。サンゴは磨き直しができるので、長年使っていて、光沢がぼんやりしていたら、購入店や専門店に相談するとよいでしょう。サンゴは真珠と同じように日本の宝石です。その柔らかな光沢は日本の女性の肌になじみ、身に着ける人の魅力を引き出してくれるでしょう。

上から、シロサンゴがゴールドをしなやかに見せ、しっとりと肌になじむリング。K18YG・シロサンゴ オークラコーラル 青山ショップ)シロサンゴのフォルムによって異なる2つのニュアンスを楽しみたい10連のネックレス。SV・シロサンゴ (オークラコーラル青山ショップ)何連も重なるシロサンゴが、シェルに奥行きのある輝きを与えてくれるネックレス。K18YG・SV・シロサンゴ・シェル (アルテミス・ジョイエリ)
左上 : 赤サンゴを使ったネックレス(Makiko Takahashi Collection)右上 : コンビネーションの使い方が新しいピアス。(中川商店)下 : ピンクサンゴとパールのゴージャスで柔らかな印象のピアス(シンティランテ)

サンゴの標本。珊瑚にはいろいろな種類がある。(マサキ珊瑚)

何万年も前から人々に愛されたサンゴ

サンゴの歴史は25000年以上にもさかのぼり、旧石器時代の遺跡からも発掘されたとされています。ギリシャ神話では「ペルセウス」と「メデューサ」の戦いでメデューサの血が海草に触れたとたん海草はサンゴに姿を変えたといわれ、キリスト教では十字架に架けられたイエス・キリストが流した血の色と考えられたそうです。そんな言い伝えからローマ帝国の時代には災難から身を守る魔よけとして使用され、十字軍の戦士のお守りとして用いられていたことは有名です。やがてその美しさゆえに装身具として身に着けるようになっていきます。時を経てシルクロードより日本へ伝わったのは仏教伝来の時期。聖武天皇に謙譲されたといわれており、正倉院にはサンゴ玉を配した冠が残っているそうです。

江戸時代後半、サンゴの歴史が大きく変わります。それまで地中海サンゴが主流でしたが、日本国内で宝石珊瑚の採取がスタート、明治時代から急速に発展していきました。それから約200年近くたった現在。サンゴの産地は地中海沿岸部とハワイ群島周辺、日本近海とされており、日本は世界的に有名なサンゴ産地国へと発展したのです。特に高知で取れるアカサンゴは良質とされており世界中のジュエラーから熱い視線を浴びています。

わずか5種類しかない貴重な宝石サンゴ

海の浅いところで生息しているサンゴは研磨しても光沢を放つことはありません。そのため宝石サンゴは水深100メートル以上の深海に生息するものに限られます。ジュエリーとして使われるのは、アカサンゴ、深海サンゴ、ピンクサンゴ、シロサンゴ、地中海サンゴの5種類のみ。わずか1センチ成長するのに50年もの時を要する種類もあるといわれ、数百年の時間を経てジュエリーとして採取されるものも珍しくありません。深みのある色合いと独特の光沢感は海底で長年の時をかけ自然が育んだ証なのです。

アカサンゴ
日本固有の種類高知県沖の海底に多く生息し、独特の赤色と品質の良さから海外へも輸出されています。赤黒いものはオックスブラッドとも呼ばれ人気があります。

地中海サンゴ
地中海全域で採れるサンゴ。枝が10〜15センチと小ぶりなので、大きな宝石にはなりまん。色むらがなくきれいなわりに、価格がそれほど高くないために人気があります。

シロサンゴ
五島列島、沖縄、土佐湾など東シナ海から日本近海の推進100〜400メートルに生息。特に象牙色(淡黄白色)のものは希少性が高く、価値があるとされています。

ピンクサンゴ
別名エンゼルスキンと呼ばれ、日本近海で多く採取されます。色はほのかなピンクからオレンジ、赤に近い色味のものがあり童話に登場するほど昔から親しまれています。

深海サンゴ
東シナ海、ハワイ群諸島で多く採取され、水深1000メートル以上の海底に生息しています。白色に赤い模様を持ったもの、ピンク色に赤い模様を持ったものがあります。

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