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神秘と欲望と愛に彩られたジュエリーに巡りあう旅 #3

Text = Horie Ruriko
Jewelry=Victoria and Albert Museum
William and Judis Bollinger Jewellery Gallery

日本以外の国ではジュエリーが古くから生活の中に溶け込んでいる。旅の中でジュエリーを発見するのを生き甲斐としている堀江瑠璃子さんの異色の旅行記。

堀江瑠璃子 (Horie Ruriko)
ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員・NHK番組審議委員、『マリー・クレール』エディトリアルディレクターなどを経てフリーランス。著書に『世界のスターデザイナー43』など。


GREECE(ギリシャ)ーアレキサンダー大王時代に眼福の ジュエリー

 英語の語源には、ギリシャ語が多い。ダイヤモンドの場合も、非常に堅固で壊れないものをさすアダマスと透明を表すディアファネスという2つのギリシャ語が重なって生まれたという。とすると、古代ギリシャとジュエリーの関係は、意外に深いかもしれない。もしかすると、ギリシャ神話の中にジュエリーで身を飾ったり、身を守ったりした女神もいたかしら……。

 そんなことを考えている矢先に「ギリシャ物語 四千年の歴史と文化を巡る 15日間」(ユーラシア旅行社)のパンフレットが送られてきた。催行は、美しい花の季節の4月。アレキサンダー大王の故郷である北ギリシャのテッサロニキもコースに含まれているし、かねてから訪ねてみたかった奇岩絶壁の上に建つメテオラの僧院や神話の世界に登場するロードス島、クレタ島、サントリーニ島にも足を延ばすことになっている。しかも移動は、水中翼船と小型飛行機とバスなので、時間的に効率よく回れるのも魅力だった。そして運よく古代ギリシャのジュエリーに巡りあえれば 。

 結果として心弾む巡りあいが、いくつかあった。中でもハイライトは、アテネに次ぐ第2の都市テッサロニキの考古学博物館でのことだった。ガイドによれば、博物館に展示されているのは、主としてマケドニア王国時代の墳墓から発掘された副葬品とのことだった。マケドニア王国時代といえば、紀元前3世紀頃のことだから日本でいえば、弥生時代だ。びっくりするほどのジュエリーがあるはずはないと、気軽に館内を回り始めた私は、一瞬目を疑った。野や森の可憐な草花や木の実などをモチーフにした繊細で華麗な金の髪飾りやネックレスが、照明を浴びて輝いていた。その彫金技術の巧みさ、創造力の豊かさは、いまから2300年も前のものとは到底信じられない。また、別なウインドウの中には、金箔で覆われた大きな重箱のようなものが、飾られていた。よく見れば、ふたの部分にはマケドニア王国の太陽の紋章が図案化されて刻まれている。「これは、王や王妃たちの骨箱なんです」。ガイドの言葉に息をのんだ。ちなみにマケドニアでは、アレキサンダー大王の父フィリッポス2世の時代から金の採掘が奨励され、金細工師を育成していたという。

 またギリシャ文明発祥の地といわれるクレタ島のイクラリオン考古学博物館にも古いジュエリーの展示があり、紀元前17世紀に作られたという2匹の蜜蜂が見事にデザイン化されている金のペンダントを発見したときは、最近パリの有名ハイジュエラーがテーマにしていた蜜蜂のインスピレーションの元かも……と、古代といまを繋ぐロマンに思いを馳せ、眼福の時を過した。

1500BC-1400BC頃。ステアタイト(滑石)をゴールドで取り巻いたリング。模様はスカラベで、再生を意味する青に着色されている。

デラックスダイヤモンド』より抜粋 *当サイトの情報を転載、複製、改変等は禁止します

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