BJI ブログ

ジュエリーと、ジュエリーにまつわるさまざまなエピソード

No.131 バチカンの大聖堂にも用いられる伝統技術マイクロモザイクをジュエリーに

BJI ブログ No.131

先日宝石箱の整理をしていたら、華やかな彩の花が描かれた「マイクロモザイク」のピルケースを発見。かなり前にイタリアに行った友人からのお土産で、懐かしさがこみ上げてきました。マイクロモザイクとはローマのモザイク職人による技術で、「テッセラ」という色ガラスの小片を組み合わせて静物や風景などの細密画(ミニアチュール)を表現する美術工芸品。モザイク自体は紀元前3世紀頃、マケドニアで発祥し、ガラスの他、石や貝殻などでできたものが発掘されています。古代ローマ帝国時代にはローマ人の貴族や役人の邸宅の住居の床の装飾に使われ、その後教会や聖堂などキリスト教建築の内部装飾にも用いられるようになります。

マイクロモザイクが誕生したのは、18世紀。バチカンのサン・ピエトロ大聖堂にある数々の名画の劣化を防ぎ、そのレプリカを制作する際に使われた技法で、一大プロジェクトのためにヴェネチアから多くの職人が集められました。レプリカ完成後、職を失ってしまった職人たちは、この技法を使って何とか利益を生み出せないかと考えた末、ブローチやピンなどのジュエリーや小さな絵画などを制作して販売。それが身近な生活の中で楽しめるアイテムとして人気が出て、18世紀から19世紀にかけて大流行しました。

現代のイタリアでも、マイクロモザイクで制作されたアイテムが多く見られます。中でもシチス(Sicis)は、マイクロモザイクと宝石を組み合わせた花や鳥など自然をモチーフにしたゴージャスなジュエリーで注目を集めています。

「モザイクの街」として知られるイタリア・ラヴェンナで1987年、床や壁などに使うモザイクタイルの製造から始まったシチスは、現在ヴェネツィアングラスを使った照明や、デザイン性豊かなソファなどインテリア商品も取り扱い、国内外で高い評価を受けています。

そのジュエリー部門シチス ジュエルズ(Sicis Jewels)は、シチスの創業者 マウリッツォ・レオ・プラクッツィ(Maurizio Leo Placuzzi)と娘のジョイア(Gioia)によって2013年に創設されました。ロンドンでGIAのコースを修了した経歴を持つジョイアは、2018年からシチスのロンドンのクリエイティブディレクターとして活動しています。

モザイクタイルから始まった会社ですが、マウリッツォは、宝石への関心も高く、娘にイタリア語で宝石を意味するジョイア(Gioia)という名前を付けてしまうほどで、シチス ジュエルズが作られたのも自然な成り行きだったと言えるでしょう。

建物全体を覆うモザイクを制作するのも、ジュエリーで使用する小さなモザイクを制作するのも、基本的な材料と製造の工程はどちらも同じ。すべてのシチスのモザイクは、炉内で1,400度でシリカ(二酸化ケイ素)を吹き付けた時に命が吹き込まれます。ただし従来のモザイクとは違い、ダイヤモンド、金、サファイアなど粉砕ミネラルを追加することでさらに色が強調され、シチスならではの鮮やかな色合いと効果を生み出すこのプロセスに特許を取得しています。

粉砕されたルベライトは赤いモザイクに活気を、ヒスイ やペリドットは緑の色調に豊かさを、サファイアはブルーに生き生きとした色調をもたらします。粉砕用の宝石は、低品質のものや通常なら廃棄されたであろう材料を使い、SDGsへの意識も高いのもこのブランドの特徴です。

タイルまたはテッセラが出来上がると、さらにそれを熱で溶かし細長い棒状にし、そこから小さな断片に擦り落としたマイクロモザイクのピースが作られます。15×15ミリのサイズのモザイクをガラス棒から取り出して、点描画を描くようにモザイクのピースを1つずつピンセットで拾い上げ、特殊(特許取得済み)の糊を塗った台座に貼り付けていきます。

「私たちの宝石は、ジュエリー制作の前にマイクロモザイクを作成する2つのステップがあるため、従来の宝石よりも時間がかかります」とジョイアは語ります。マイクロモザイクが完成した後、そこに同色の宝石をセッティングしていきます。色が命であり、宝石の色がモザイクの色と完全に一致するものを見つけるために何十回も色合わせを行うことがあり、忍耐力が必要です。「手作りの要素がたくさんあり、しかもすべて宝石は同じものではなく、顧客も唯一無二の宝石を好みます。その日の気温やカットのプロセスなど、まったく同じものはないのです」とジョイア。技術を習得するためにシチスの工房で働いている約30人の職人は全員美術を学び、少なくとも3年間社内での研修を受けます。非常に集中力を要する作業のため、制作されるジュエリーの点数は限られます。シチスはその特異な技術を使い、フェンディのために大理石とマイクロモザイクのジュエリーを、ハリーウィンストンのために複雑時計の文字盤を作っています。

「1点もののハイジュエリーから日常的なものまで、シチスのジュエリーは非常に古い歴史に支えられた現代の美術作品。本当の価値は金や石ではなく、それぞれのジュエリーにこめられた伝統技術や、豊かな芸術性にあるのだと思うのです」と語るジョイア。

イタリアの伝統的な技術に裏打ちされた、色鮮やかなマイクロモザイクと宝石との美しいコラボレーション。日本での取り扱いはまだありませんが、インターネット通販で購入が可能です。

TOP画像:Sicis Jewels

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