BJI ブログ No.203

コロナ禍の中で、あっという間に成長したインターネットによる動画配信。

海外、それも今までなじみがあまりなかった国のドラマや映画が気軽に視聴できるのが魅力ですね。今ではすっかり市民権を得てしまったようです。

さて、その動画配信大手のネットフリックスが、2023年4月21日からダイヤモンドをテーマにした8話完結ドラマの配信をスタート。タイトルは「ラフダイヤモンド（ダイヤモンド原石）」。

イスラエルとベルギーの共同制作のこのドラマはダイヤモンドの街、ベルギー・アントワープで何世代にもわたってダイヤモンドビジネスに携わってきたユダヤ人家族、ウルフソン家を中心とした犯罪サスペンスです。

ユダヤ人は 500年の間にベルギーに移住し、特定の仕事をすることを許可されていなかったため、ダイヤモンドを使って独自のビジネスを始め、これが大成功を収めました。

現在も世界のダイヤモンド原石の80%以上がこのアントワープのダイヤモンド地区を通して取引が行われています。アントワープには20,000人による強力なユダヤ人コミュニティが存在し、その半数以上が依然としてダイヤモンド業界で働いていますが、最近は新参者であるインド人たちによってその地位が脅かされつつあります。

また、過去に注目を集めたいくつかの訴訟から、アントワープのダイヤモンドはヨーロッパ中の麻薬密売の取引やマフィアの資金洗浄に利用されたりといった闇の顔も持っています。

ウルフソン家の人たちは、そんな闇社会の人間にうっかりだまされてしまい、多額の借金を追う羽目になります。そんな中でも事業を存続させようと奮闘するのですが、決してきれいごとだけではすまされない現実が待っています。

この一家は、ユダヤ教の中でも「超正統派ユダヤ教徒」と呼ばれるハシディズム派に属しています。ハシディズム派とは、黒ずくめの衣服に大きな帽子、豊かなあごひげ、くるくるとカールした長いもみあげをした厳格なユダヤ教の戒律と伝統を守って生きている人たちのこと。

イスラエルには、今も100万人以上もの人たちがハシディズム派として生活しているのだそう。超正統派にはいろいろな慣習がありますが、特に性をめぐるルールは厳しく、青春時代には恋愛もデートもなし。男女が一緒に歩いていたら、それはほぼ既婚者。祈りの場所も別々だとか。これっていつの話なのか？と思うのですが、21世紀にもまだ続いているというからびっくりです。

主人公のノアは、こうした生活になじめず愛する婚約者がいながら出奔、弟の自殺をきっかけに15年ぶりにアントワープに戻ってきます（なんと元婚約者の女性は、彼の代わりに弟の妻になり子供も2人いるという設定）。

そして家業が大変な状況にあることを知り、今住んでいるロンドンに置き去りにしてきた（マフィアが絡むような）危ない仕事を後回しにして、家族を助けるためにアントワープにとどまることを決めます。その結果彼は自身だけではなく、姉や兄をも巻き込んだ闇の世界へ深くはまっていくことになってしまいます。

ストーリー展開はなかなかスリリングで、次はどうなるのか気になり、あっという間に最終回。

主人公のノアは自分勝手な人物で、あまり感情移入ができなかったのですが、舞台となっているアントワープの景色やダイヤモンド取引センター、ダイヤモンド取引のシーンなどは楽しめました。

そして「ユダヤ教」の人たちの生活を垣間見られたのもこのドラマの魅力の一つ。

男性は先述の黒装束ですが、既婚女性はスカーフなどで髪を隠しています。ユダヤ教の正月、お葬式、結婚式などのシーンは、今まで見る機会がなくとても新鮮でした。

言語は、家族間や同じコミュニティの親しい間柄どうしでは、東ヨーロッパ系ユダヤ人の間で話されているイディッシュ語。ビジネスシーンでは、ベルギーの言語であるフラマン語のほかに英語、フランス語を使うといったこだわりに製作者側の熱量を感じさせます。

厳しい戒律の中で今も生きているユダヤ人コミュニティ、変わりゆくアントワープのダイヤモンド取引事情、そしてちょっぴりラブロマンスもある骨太なエンタティメント作品。華やかなジュエリー界の新しい側面を知る機会となることでしょう。

トップ画像出典：timesofisrael.com

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